
上田壮一氏


私がやっていることは、簡単にいえば、起業家あるいは起業家的なリーダーを育てていくことです。特に、大学生や若い世代に対して機会を提供しています。ま た、その中でも、社会的な課題に事業で取り組んでいく社会起業家のスタートアップの支援に特に力を入れています。どうやって育てているかというと、一番重 視している手法はインターンシップです。ただ、みなさんがイメージするインターンシップよりも長く、半年とか一年という長期のものです。企業やNPOや行 政の現場に入り込むという機会を若者に提供して、そこで起業家精神をはぐくむチャンスを作ることで、かれらを応援することに力を入れています。

これは1990年にアメリカのボイジャーという惑星探査船が地球から40億キロくらい離れたところから撮った写真です(写真2)。太陽系のファミリー・ポートレイト(家族写真)と呼ばれています。地球は本当に小さな小さな星で、私たちはその上で生きているわけです。

宇宙飛行士が「宇宙から見た地球はたとえようもなく美しかった。国境の傷跡などはどこにも見えなかった」とか「最初の一日か二日はみんな自分の国を指差していた。三日目、四日目はそれぞれ自分の大陸を指差していた。五日目にはたった一つの地球しかなかった」という言葉を残しています。地球にはもともと国も国境も無かったのです(写真3)。
時間も同じです。人間がつくった時間は文明を発達させましたが、アフリカの野生動物の暮らしは地球時間です。当時の僕は地球時間よりも人間の時間というものに縛られていると思っていました。それでポケットの中から宇宙飛行士が見た地球が出てきて、それを毎日眺めたりすると、かっこよくカジュアルでファッ ショナブルに感じるのではないかなと思ってこのアース・ウォッチを考えました(写真4)。


最初はポートサイトをつくりました。これは映画で言うと脚本みたいなものです。日本のある通信企業の研究所と一緒にプロトタイプを作りました。
これをもって企業を回っていくとSIIという会社が注目し、結果的にはアナログの時計を作りました。これはどうなっているかというと、真ん中に北極がある半球形の北半球の時計です(写真5)。
パッケージをおもしろく作ってあり、箱をあけると地球を中心にしてひとつの物語が完成するようなグラフィックカードが入っています(写真6)。プロダク トとしての時計というよりも、絵本とか映画とか詩というメッセージを作ってきた、そんな表現を加えたものを作ったわけですね。

その売り上げの一部を途上国の子供たちの教育などを熱心にやっているNPOに寄付するなど、還元型のビジネスをできないだろうかと考えました。NPOと協力しながら地球を考える、未来を考えるプロジェクトを起こしていこうと思い立っていったわけです。

Think the Earth ProjectというNPO団体を作ろうということになりました。これは物事を分かりやすく効果的に伝えるプロである僕らが、社会問題や環境問題を分かり やすく伝えようというプロジェクトです(表1)。僕らがそのプロジェクトを始めて5年。企業もCSR(企業の社会的責任)が定着し、NPOも広報、法律、 情報のマネジメントが必要になっており、これらを支援する活動をしています(図1)。

地球温暖化など、環境が危機的なことは皆分かっています。植林活動をやったり100%風力発電で電力をまかなう町もあ ります。菜種や大豆油で車を走らせる研究や運動あります。日本でも「車に乗らない日」や「打ち水大作戦」など何百万人も参加するようなソーシャル・イベン トがどんどんと生まれてきています。自然分解性素材のプラスチックや、ナノテクノロジー応用のメンテナンスフリーなビルの外装など、自然のサイクルで完結 するテクノロジーを作っていくことも非常に大切になっています。
ブータンの国王は Gross National Happiness 、つまり国民の幸福量を最大にすることを目標にした開発・政策をとっていくべきだと話しています。企業がNPO化してNPOが企業化するようなことも起き ていて、社会貢献ビジネスとかいろいろなものが生まれてきています。今までは便利で安い製品が売れた時代でしたが、これからは製品が社会問題を解決したり 環境に負荷を与えないということが選択の大きな基準にならなければまずいということです。ソーシャル・マーケティング、ソーシャル・コミュニケーション、 ソーシャル・デザインなどソーシャルという言葉がついたマーケティングやコミュニケーション、デザイン、クリエイティブという時代に入ってきているということです。
僕らは今大きい変化の時代を生きています。これまでの常識では未来は暗いと見る人もいると思いますが、今までお話した未来を作るプロジェクトや人や発想はどんどん新しいものが生まれてきています(写真7)。

これから社会に出て行かれる皆さんは、ぜひよりよい社会にしていくという方向のプロジェクト作りをしたり、あるいはそ ういう発言をしたり、家に帰って家族とそういう話をしたりしてください。身近なことから未来は変わっていくのではないかと僕は思っています。ぜひ、今日話 させていただいたことを持ち帰っていろいろと考えていただければと思います。
どうもありがとうございました。