IKUEI NEWS vol81
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 そして、言葉を使った表現の研鑽に貪欲になれること。表現というものは、正解・不正解ではありません。自分の表現を常に良しとせず、「もっと良い表現があったんじゃないか」と探究を続けることが大切です。 表現だけでなく語彙力もそうです。小学生からご高齢の方、学生から専門家まで、伝える人を意識して使う言葉を変化させる必要があります。「言葉の引き出し」を常に増やしていくのです。 より良い通訳をするために、毎日のニュース番組をチェックしたり、新聞を購読したり、世の中の情報に対して常にアンテナを張ることは不可欠です。日頃の情報収集、勉強は通訳者の義務だと思っています。「等価」を基本に「使命」を果たす ご縁があって大学教員としても働き始め、早15年が経とうとしています。通訳の仕事と両立するのは大変ですが、専門職である通訳者は、そのスキルやノウハウを継承する必要があります。私の尊敬する作家・曽野綾子さんは、「『仕事』を表す言葉には『vocation=使命』という言い方があり、その人にはその人にしせん。会話には、その人の出身国をはじめ、性格や経歴、表情や声など、背景となっているものがたくさんあるわけです。それらのさまざまな要素を考慮し、適切な日本語で表現し、気持ちを伝える。この仕事は機械にはできない、非常にクリエイティブな仕事です。常に好奇心を持ち続け、高感度なアンテナを張る 仕事の際、私の通訳を「神業」とお褒めいただくことがあります。ありがたい話ですが、通訳は神業ではなく一つの専門技術であり、大きな努力の上に成り立っています。自分の能力に驕ることなく、どのようにすれば通訳者として活躍できるスキルを磨けるか、ということを私は常に意識し続けています。 通訳者を志望する人の中には、「学校でとにかく英語が得意だった」という人がいますが、それだけでは絶対に通訳者にはなれません。通訳者になるためには、相手の意図を正確に汲み取るためのさまざまな素養が必要です。 まずは、何事にも興味や好奇心を持つこと。人に対しても、言葉に対しても、社会の出来事に対しても、日頃からいろいろな情報に興味を持って学ぶ姿勢です。かできない仕事がある」とおっしゃっています。 外国人の流入が進み、多言語・多文化社会への歩みを進めている日本。オリンピック・パラリンピックも控えており、今後国内のあらゆる場面で通訳が必要になるでしょう。私には、理論や研究だけではなく、実際に現場に立っているからこそ教えられることが多くあります。この「内なる国際化」の時代に、自分にしかできない仕事を考えた時、後継者の育成はまさに私の「使命」でした。 通訳・翻訳は、「equivalence=等価」を中心概念としています。そのため、学生たちにはどんな言葉同士が等価なのかを考えることを大切に教えています。例えば、日本で使われている外来語を調べてみても、ファッション用語にはフランス語が多かったり、音楽用語ではイタリア語が使われていたり、言葉から国の特徴をつかむことができます。言葉について学び進めるうちに、その背景にある歴史、文化、国際関係などがどんどん分かってくる。つまり、言葉を通して「社会」が見えるのです。大学生の皆さんには、単に外国語を学ぶだけでなく、その先の「社会」を覗いてほしいと思っています。上智大学外国語学部フランス語学科卒業、コロンビア大学経営学大学院修了。MBA(経営学修士)取得。金融業界で10年の勤務経験の後に通訳者となり、目白大学助教授を経て現職。フランス語学科卒業、イタリア在住経験もあり、英語のほか、フランス語やイタリア語も話す。 NHK「英語でしゃべらナイト」監修などのほか、著書には『よくわかる逐次通訳』(共著、東京外国語大学出版会)、『45分でわかる! オバマ流世界一のスピーチの創りかた』(マガジンハウス)などがある。鶴田 知佳子(つるた ちかこ)おご6

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