IKUEI NEWS vol81
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金沢美術工芸大学 工芸科 漆木工コース 3年 嘉数 翔漆を使ったアート作品を生み出す漆芸作品で、世界をほんの少し良い方向へ「漆」に一目惚れして工芸・漆芸の世界へ 漆というものをご存知でしょうか。そうです、黒い艶を持った器などに用いられるそれですね。実際、私が工芸や漆芸に触れる前の知識も皆さんと同じくらいのものでした。しかし、私が大学に入学して観た漆の作品は、今までの漆という概念を覆すかのようなものでした。巨大で吸い込まれるような漆黒を纏ったオブジェや、煌めく加飾が施された極小の用途のない箱など、静謐で荘厳な世界がそこにはありました。一目惚れとでも言いましょうか、それが漆と私との出会いでした。今は漆芸の技法を用いて、主に平面や立体作品を作っています。気が向いたときには、器やカトラリー類、オーナメントも作ることがあります。厄介で扱いが難しいからこそ完成すれば愛おしい 人類と漆の歴史はおよそ1万2000年といわれています。漆は、気まぐれで扱いが難しく目や手が離せない、いわば「赤ん坊」のような存在です。手間のかかり方が工芸でもトップクラスであり、高価なため制作費がかさみます。性質としては、埃を嫌い、温度と湿度で硬化し、皮膚についた場合はほとんどの人が重篤なアレルギー反応を呈します。 さらに、一つの作品を作るのに数十工程から数百工程を経て作られ、半年や一年かけてようやく完成します。自分でもなぜ好んで取り組んでいるのかが不思議なくらい厄介な素材ですが、完成すると我が子のように愛しいものです。人に影響を与えるような「美」を自分の作品で表現したい 国際社会の動向や東京五輪前などの影響から、日本のサブカルチャーからハイカルチャーまで脚光が浴びることが増え、工芸も例に漏れずその恩恵を受けています。芸術の社会的役割も頻繁に問われ、美大生も常に自問し制作しています。 私が芸術と社会のつながりを意識したのは、2015年に岐阜県の白川郷で行われた芸術祭に参加したときでした。贅沢にも世界遺産である合掌造りに滞在させていただき、その合掌造りでインスタレーション(※)を発表しました。作品自体は、当初の予定から二転三転、右往左往して完成したので個人的には納得がいかないものになってしまいましたが、地域の方々との結び付きや活気を感じ、芸術の持つ力について再考する機会となりました。その時に見かけた、小さな子が目を輝かせて作品を観ていた楽しげな姿に、ぼんやりと芸術の希望を見つけました。 芸術が本当に社会に役に立つものかは分かりません。しかし、芸術は物の見方を変えてくれたり、変化を与えてくれます。その変化は巡り巡って、小さな幸せの種になるかもしれません。それが萌芽するときに世界はほんの少し良くなるかも知れない。そういう作品を、「美」を、この手から生み出したいと思います。「奨学生のページ」は奨学生の活動について報告するページです。今回は、漆芸によるアート作品を作る嘉数翔さんと、小説家を目指す石橋正成さんによるレポートを紹介します。作品名 『Hermaphroditos』神話をテーマに、両性具有の神を描いた蒔絵作品。作品名 『Myth series』神話をテーマにしたシリーズ作品。恵比寿のギャラリーにて展示。かしつげいせいひつ※据え付け、設置の意味から転じて、展示空間を含めて作品とみなす表現手法。かずしょう35

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