IKUEI NEWS vol.80
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10年の成果寄稿 京都大学と電通育英会で創始された「大学生研究フォーラム」という10年間の試みのうち、東京大学は7年間をご一緒させていただきました。 この10年、大学もさることながら、企業の人材マネジメントも大きく変化しました。例えば、10年前はリーマンショック直前で、新入社員の定着が大きな人事課題になっていました。ポストバブルの影響で成果主義が矢継ぎ早に導入され、リストラクチャリングが進行した結果、職場の人材育成機能が一部機能不全に陥りました。各企業は、OJTや研修などの新入社員の社会性の強化を行っていきました。本フォーラムは、教育機関(大学)と企業の間の円滑なトランジションをモティーフにしておりますが、このモティーフが浮かび上がった背景には、こうした問題があったと認識しています。 思えば、企業と教育機関の間には、これまで非常に深い断絶がありました。「企業に入ってからは役に立つことしか学べないのだから、大学時代は役に立たないことこそ学べばいいのだ」とか、「企業に入ってから必要になる能力を早期に獲得させ、学生の就業力を高めるのが大学の仕事であろう」という大学内部の声。それに対して、「大学時代の勉強など、企業に入ってから役に立たない。だから企業には白紙で入社してくればいい」、「大学は一体何をしているのだ。企業に入る前から、企業で必要になる様々な知識や能力を身に付けて来させるのが大学の責務であろう」という企業内部の声。こうした拮抗する意見を前にして、教育機関と企業は長きにわたって反目し合っていました。 大学生研究フォーラムは、大学と企業の両者を架橋しトータルに考える視点、「トランジション」を提供したことにこそ大きな成果があったと思っています。「教育機関での学習・経験 │ 採用・選抜 │ 組織社会化 │ キャリア発達」という、今後さらに注目が集まることが予想される「縦断研究のモティーフ」を提案し、両関係者が出会う場を提供できたことが最も意義深いところでしょう。私は、本企画において、主に企業の人材マネジメント部分の企画を担当してきましたが、ビジョン溢れる試みにお声掛けをいただいたことを心より嬉しく思っています。 時は過ぎ、10年が経った今、企業の人事課題は、女性のキャリア発達の支援、長時間労働の是正、職場の多様性に対する現場マネジメント層の強化、外国人社員の採用と定着、中途採用社員の円滑な適応など、さまざまな方向に転換しています。教育機関から企業への円滑な移行の問題は、従来より人々の関心が集まったとはいえ、まだまだ十分ではありません。このような人事課題の多くは、企業の問題としてだけ捉えるのではなく、教育機関と連携したトータルな視点が必要です。大学生研究フォーラムにご参加いただいた多くの方々が、今後も引き続きご尽力されることを願っています。フォーラムとともに歩んだ10年間―大学と企業東京大学 大学総合教育研究センター 准教授 中原 淳2017大学生研究フォーラム21

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