IKUEI NEWS vol.79
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えている。経済面からいえば、別にウサギ型とカメ型のどちらがいいとも言えないだろう。日本はアジアの国で唯一、欧米の経済クラブであるG7の正式メンバーになっているではないか。 だが、教養面からはどうだろう。ウサギ型の日本は、幼稚園のお受験に始まり、10代の終わりまで受験競争に追い立てられる。そして、大学に入った途端に気が抜けて、「終わって」しまう人も多い。大学では、それまでの鬱憤を晴らすかのように遊び始め、肝心の教養を身に付けずに、急いで社会へ巣立ってしまう。 欧米の多くの国にお受験や受験戦争は存在しない。日本人が誰でも知っているアメリカのハーバード大学にしても、日本の受験とは趣が異なる。地元の合唱団で頑張っている子が、指揮者から推薦状をもらうと、いきなり合格可能性が高くなったりする。ハーバードに限らず、欧米の有名大学は、多様な教養を身に付けている生徒を優先的に入学させるシステムを確立している。ウサギよりもカメに目を付けているのだ。私が知っているアメリカ人の科学者は、ゆっくりと博士号を2つ取得した後、科学雑誌の編集者をしていたが、ある日、思い立ってジャズミュージシャンになってしまった。欧米では、オリンピックで金メダルを取った運動選手がお医者さんや弁護士になるようなことも珍しくない。教養を身に付けたければ「カメ型」に生きよう 何が言いたいのかというと、教養というのは、「カメ型の人生」なのであり、「常に自分が好きなことを続ける力」のことだと思うのである。たくさん給料を稼ぐ、という目的であれば、教養など身に付けず、がむしゃらにウサギ型で専門技能を習得すればいい。だが、問題は、それで人生が豊かになるかどうか、ということなのだ。 人生、当初の目的どおりに順風満帆に進むとは限らない。なんらかの理由で挫折して、目標が失われたとき、「教養人」であれば、自分が好きで打ち込めることが複数あるのだから、次の目標に向かって再スタートを切ればいいだけの話だ。もちろん、当初の目論みどおりに人生が進めば、それもまたよし。でも、仕事が終わったら、教養の時間が待っている。つまり、教養は、もともと好きで打ち込める何かなのであり、人生の幅を広げてくれる宝なのだ。好きなことに打ち込み「教養バカ」にならない人生を さて冒頭の「教養バカ」の意味であるが、こんなふうに定義できる。「ウサギ型で教養を身に付けてこなかったのに、周囲にひけらかすために、上っ面の知識を身に付けている人」。こういうタイプの人の話は、深みに欠け、面白くない。退屈だ。すぐに分かる。誤解しないでいただきたいのだが、別にレンブラントばかりが教養ではない。アニメやゲームだって立派な教養たりうる(日本のオタク文化に惹かれて来日する人は多い)。 あなたも、まずは、専門のほかに何か一つ、好きで打ち込める教養を探してみませんか?教養は「生きる態度」なのだから、今からでも決して遅くありませんよ。1960年東京生まれ。東京大学教養学部教養学科卒、同理学部物理学科卒。マギル大学大学院博士課程修了。理学博士。サイエンス作家。YES International School(フリースクール)校長。NHK「サイエンスZERO」、TBS系「ひるおび!」などテレビやラジオでもおなじみ。妻と娘と3匹のネコと共に横浜在住。趣味はカメラ、ピアノ、そしてカポエイラ。竹内 薫(たけうち かおる)18

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