IKUEI NEWS vol.79
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仕組みが問題であるといわれています。しかし、勉強不足の結果、世界の大学生と学力だけでない大きな差が生まれているのも事実です。 例えば、私が学生時代に留学したオーストリアの学生たちは、「将来社会を支えていくから、自分たちは一所懸命勉強しなければならない」というエリートとしての自覚を持っていました。その背景では学生割引や授業料免除など、社会に支えられていることを理解し、責務を自覚しています。多面的に自分の立場を捉え、大学生に求められている役割を分かっているのです。日本の大学生には、この「物事を多面的に捉える視点」が欠けてしまっていると私は感じます。 では、どのように多面的な視点を身に付ければよいのでしょうか。勉強して基礎学力を高めることはもちろんですが、効果的なのは多くの経験を重ねることだと思います。大学の授業のみに留まらず、ボランティアなどで地域や世界に飛び出して行くとよいと思います。世の中にある課題一つと向き合うと、それに関連するさまざまな分野について現場で学ぶことになり、多面的な物の見方が磨かれるのです。的な専門から、ヨーロッパ全体の近現代史、ヨーロッパ以外の近現代史、日本も含む世界中の歴史まで広げて勉強しました。勉強は大変でしたが、私の場合は、予備校講師のアルバイトや学会誌の編集委員など、若い頃から半ば強制的にさまざまな分野を学ぶ環境にいたために、自然に自分の幅が広がったと思います。 私が学んだ分野は、文系・理系問わず多種多様でした。「自分は世界史専攻だから日本のことは知らない」、「文系だから理系の分野はよく分からない」という姿勢では学問として完成させることができないと思います。最近で言えば「歴史地震学」という学問がありますが、地震学や地球科学はもちろん、津波堆積物を調べる考古学の知識など、文系だけでなく理系の専門知識も必要になります。「歴史だから文系」、と単純に学問を文系・理系に分けても意味がないのです。大学生に必要なのは多面的な視点を身に付けること 日本の学生は勉強をしないという話がよくありますが、これは一般的に勉強しなくても卒業できてしまう大学の知識の深掘りと多様な経験で自分に「厚み」をつくる 大学生の皆さんには、自分の興味・関心のある事柄を追い求め、極めてほしいと思います。それは必ずしも学問でなくても構いません。まずは自分の関心あることから始め、関連する分野へさらに展開していくことで、どんどん知識が広く深くなります。 そうはいっても、好きなものがなかなか見つからない人もいるでしょう。しかし、焦る必要はありません。いろいろなことを学び、経験しながら、手探りで好きなものを見つけていく期間もまた、自分を成長させてくれる糧になるはずです。 そして、ボランティアやインターンシップ、イベントなどに参加して、自分の考え方を相対化するような経験をしてほしいと思います。そこでは成功ばかりでなく、失敗も困難も経験するでしょう。振り返って、「ああすれば良かった」と後悔することもあるかもしれません。しかし、そうした多様な経験が多面的視点を育て、自分自身の「厚み」につながっていきます。大学生のうちから学習と経験を積んで、教養ある人間に近づいてほしいと思います。1958年生まれ。1987年、東京大学大学院社会学研究科国際関係論専門課程単位取得退学。1996年から千葉大学文学部助教授、2003年に文学部教授、2014年より教育改革担当副学長。2016年に創設された国際教養学部の学部長も務める。歴史学者。専門はハプスブルグ帝国史、近代ドイツ・オーストリア史。小澤 弘明(おざわ ひろあき)10

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