IKUEI NEWS vol.78
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加藤 司(かとう つかさ)関西学院大学大学院文学研究科心理学専攻修了。博士(心理学)。現在、東洋大学社会学部社会心理学科教授。専門領域はストレスとストレスへの対処。趣味は研究、研究室で死ぬことを日夜夢見ている。主要著書に『対人ストレスコーピングハンドブック』(ナカニシヤ出版)、『離婚の心理学』(ナカニシヤ出版)などがある。HP: http://katolabo.web.fc2.com/Blog: http://katolab.blog.fc2.com/友人との対立を避ける言動が、関係を良好にするために望ましいコーピングなのかもしれません。しかし、そのようなコーピングはストレスを増加させます。対立を避けるためには、自分に原因がなくとも「友人の気持ちを理解しようとしたり」、「友人の誤解を解くように努力したり」、「自分の方から友人にメールしたり」、友人に自分を合わせるようなコーピングをしなければならないからです。大学生は、例えストレスを感じても、友人関係が良好になることを望んでいるのかもしれません。 しかし、そのようなコーピングが通用するのは、大学生までの表面的な人間関係だけです。主な理由は2つあります。第一に、そのようなコーピングを行うことによって、自分自身もまた、否定的評価に敏感になり、肯定的態度しか受け入れなくなるからです。自分の言動が友人に否定的に受け取られはしないか気を使い、友人を褒めるようなやり取りをしていると、自分自身もまた、友人に対してそのように接してほしいと願い、友人がそのように接することが当たり前だと思うようになります。そして、友人がそのような態度で接しないと、不愉快に思うようになるのです。先にも話しましたが、否定的意見や態度に敏感になり、肯定的態度しか受け入れられない傾向は、友人関係だけではなく、幅広い関係に悪影響を及ぼします。大学生までならまだしも、社会人としてもそのような関係を望んでいるなら、不適応を起こすでしょう(上司との関係が原因で早期離職してしまうように)。生涯、ネットの中だけの関係に終始するなら、話は別ですが……。 第二に、友人との対立を避けるコーピングばかり用いていては、友人と親密になれないからです。親密な友人とは、本音で話ができる関係です。対立を避け、否定的意見や態度を抑えていたのでは、本音で話はできません。それどころか、親密な友人を作る機会すら得られないでしょう。否定的意見を避け、肯定的態度で接する人物の言動は、信用されないからです。例えば、何でもないことでも褒めている人物が、あなたのことを褒めたからといって、あなたはその言葉がその人物の本心だとは思わないでしょう。肯定的言動ですら信用されないのですから、それ以上、関係が進展するとは思えません。むやみに肯定的ではないか自分の行動を見直そう 多くの大学生は、自分自身が「否定的意見や態度を避け、肯定的態度しか受け入れていない」ことに気付いていません。自分はそうではないと思い込んでいます。周りの友人と比較したのでは、自分の姿は分かりません。類は友を呼ぶからです。交流のない大学生、上の世代、下の世代、国外の大学生などと比較する必要があります。ゼミなどで意見を言う場合、まずは相手の意見を肯定する発言をしていませんか。友人の目の前で「反対です」と言ったことがありますか。自分自身のことがよく分かり、友人と言い争ったり、批判し合ったりすることができるようになれば、適応的なコーピングを行える段階に移行できますが、その話は別の機会にします。 最後に、ここで話をしたことは、すべての人に当てはまることではありません。そもそも心理的な事象に、「絶対にこうだ」ということはないのです。14

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