ikueinews vol76
15/40

還です。フィールドに出ると、日常の当たり前とは異なる環境・他者に出会います。そうした経験を積み重ねることで、柔軟な発想、多様な価値観が必然的に身に付きます。教育学研究科では、フィールドワークで学ぶための環境、教育システムを豊かに用意しています。 次に、②の対話型の教育に対する取り組みです。本学部は、現代教育基礎学系、教育心理学系、相関教育システム系の3系からなり、2回生の終わりに各系への分属を決定します。そして3回生から本格的に各系の専門教育に入り、専門ゼミナールで各専門の知識・技術を学びます。このゼミナールは少人数で構成され、黙ったまま授業に参加することが許され難い環境となっています。ゼミナールでの対話を通して、学生たちの主体性を鍛えます。さらに、多様な考え方に触れることで何が妥当なのか、なぜそう考えるのかを思考する。同時に、相手の立場を尊重しながら適切に議論を進めていく経験を通じて、相手に柔軟に対応するコミュニケーション力を養成します。 最後に、③の文理融合の視点について。現代社会で生じている複雑極まりない問題の解決には、文理融合の視点とアプローチ、方法論が必須です。理想論にとどまらず、地球社会、人類の現実と未来を具体的に見据える。そのために、生物としての人間を科学的に理解することが何より重要です。そのためには、課題を多角的に分析し、客観的手法で検証できる技術も併せ持った、文理融合領域が不可欠です。本学部では、他系の科目を必修としています。また、理系入試制度を設けており、1学年60人のうち10人が理系入試で進学してきています。多様性を重視する、これが本学部・研究科が大事にしているポイントです。 メタ認知に重要な脳のネットワーク メンタライジング・システム ここからは、大学生の教育を考える上で重要となる脳機能の発達についてお話します。 自分と他者の視点を互いに変換することで、相手が自分とは異なる心を持つことを理解する、相手の心の状態を自分のそれとは区別して想像し、理解する力を獲得する。こうした認知機能を獲得することが、この時期には極めて重要です。これらは、前頭前野の働きによります。 私たちが他人の心を理解する場合、おもに2つの神経ネットワークが働きます。一つは、「ミラーニューロン・システム」、もう一つは「メンタライジング・システム」です。 ミラーニューロン・システムとは、無意識的に自分の心と他者の心が文字通り鏡のように理解される神経システムです。例えば、梅干を食べてすっぱそうな顔をしている人を見ると、自分は梅干を食べていないのに思わず唾液が溢れる。これは、他人の心に思わず共感する心的特性と深く関わっています。 他方、自分と他者の心の状態をいったん切り離し、自分がいま適切にやるべきことを思考、推論する力、これが前頭前野が主に関わるメンタライジング・システムの働きです。このメンタライジング・システムを発達させていくことが、メタ認知を持った人材を養成する上で極めて重要です。最近の研究で分かってきた重要な点があります。前頭前野の成熟は25〜30歳すぎまでかかる、ということです。つまり、一般的に大学生に当たる時期には、前頭前野がいまだ十分機能していないのです。 発達途上にある脳を持つ大学生に対し、大学教育が担う役割は非常に大きいのです。私たち大学教員は、そうした生物学的事実をしっかり理解した上で、学生教育に向き合っていかねばいけません。ただし、一人ひとりの学生の脳発達には個人差があります。そうした点を考慮しつつ、いかに彼らに効果的な教育を提供していけるのか。この点を考えることが、私たちのこれからの課題です。大学生研究フォーラム 201612

元のページ 

page 15

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です