IKUEI NEWS vol72
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 相手に接近しすぎる(依存や甘えによる過干渉の状態)とお互いに傷つく危険性が生まれます。しかし、相手から離れすぎる(疎遠で無関心な状態)と孤独感にさいなまれます。精神分析医で心理学者のベラックは「現代人は最適な人間関係を見つけることができないジレンマに陥っている」と警鐘を鳴らしています。 ところで、親しくなるほどお互いに傷つく機会が増えます。普通の友だちであれば、お互いに距離を置いて付き合うので、傷つくこともなく、仲良しの関係が長続きしやすいのです。ところが、親密な関係になるとお互いの欠点が見えたり、意見や考えが衝突したりして、ヤマアラシ・ジレンマが深刻になります。 言いかえると、親しくなるほど相手のなわばりに深く立ち入ることになるので、お互いのなわばりを尊重した言動が大切になります。冒頭で紹介したヤマアラシのカップルは「お互いのなわばりを認め合い、恋愛関係を持続するにはどうすればよいのか」というジレンマに悩んでいたことになります。 「親しき仲は遠くなる」(親しいからといって遠慮がなくなると仲違いが起こり疎遠になる)と困ります。例えば、「批判する、問題点を指摘する、叱責する、注意する、けんかする」のはトゲで相手を軽く刺すこと(つまり、相手のなわばりの確認行為)になります。こうした痛みを体験して、「してはいけないこと」や「仲直りの仕方」が分かり、「思いやりや共感」が身に付きます。 しかし、遠慮や気づかい、事なかれ主義などだけによって保たれる仲良しでは、何年つきあっても本物の恋愛関係は育ちません。痛みを経験してこそ、「雨降って地固まる」のです。恋愛を育むなわばり行動 恋愛を育てるなわばり行動に関連したポイントをプロクセミックス(近接学)の研究からまとめてみました。 第一は、パーソナル・スペースの使い方です。二人が手を伸ばして握手できる距離(100㎝程度)は個人的な会話に向いています。この距離で気軽に立ち話ができるようになったら、一方的に相手に触れることのできる距離(30㎝程度)まで近づいて話すと恋愛感情を伝えることができます。 第二は、座る席の選び方です。はす向かいの席はリラックスして話せる席です。親しくなったら正面の席に座って、アイコンタクトで恋愛感情を確認し合うことができます。さらに、横並びの席はお互いの体温を感じたり、偶然に体が触れ合ったりするので恋愛感情が昂ります。 第三は、タッチングです。身体(ボディ・テリトリー)に触れると好意や信頼感が強まります。最初は肘から手首までが誤解を与えないタッチの部位です。親しさに合わせて、手、肩などに部位を変化させるのが無難です。タッチングは安心感と癒し効果をもたらすばかりか、性的な高揚感にもつながり、恋愛感情が覚醒します。 第四に、自分の部屋や持ち物はなわばりの目印です。自分のなわばりに招き入れるのは好意と信頼の証になります。親しくなったら、私物を見せたり、自分の部屋に招き入れたりして恋愛感情を猛烈アピールすることができます。渋谷 昌三(しぶや しょうぞう)1946年、神奈川県生まれ。東京都立大学大学院心理学研究科博士課程修了、文学博士。山梨医料大学医学部教授を経て、2001年より現職。非言語コミュニケーションに基づいた対人関係の研究を行っている。『恋愛心理の秘密』(だいわ文庫)、『人との距離感が上手い人下手な人』(新講社ワイド新書)、『自分を成長させる悩む力悩まない力』(ぱる出版)など著書多数。16

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