IKUEI NEWS vol.73
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するというやり方です。紙の書籍の役割、電子書籍の役割 電子書籍がどれだけ浸透しても、紙の書籍やリアルスペースとしての図書館がなくなることはありません。例えば背表紙を見ながら関連する本を探して、新しいことを発見するような、紙の持っている「物質性」は電子書籍にはないものです。また、一冊の本を通読するにあたっては、紙の本の方が便利だと思います。逆に、レポートや論文を書くにあたって、何冊もの本から意見や主張をピックアップする際には、携行性の高い電子書籍の方が便利でしょう。本文全体からの検索も、電子書籍ならではの機能です。 また、紙の書籍と電子書籍を併用すれば、紙媒体ではできないことを電子書籍で補完することができます。例えば、紙の書籍にたくさん書き込んでおいて、まっさらな状態の電子書籍で復習するなど、ハイブリッドな学習が可能です。あらゆる学生のための知識情報基盤改革を ディスカバリーサービスの導入や、大学図書館から出版社に対して電子化の働きかけを行なっている大学は、まだほんのわずかです。しかし、就職活動のエント出てくる場合がありますが、そのために紙の本を何十冊も買うわけにはいきません。そこで、通常は1人がアクセスできるという電子書籍の購入契約を結んでおいて、レポート課題が出る期間に限って50人同時に閲覧できる契約に変更するという風に、フレキシブルな購入形態を提案しています。実際私のゼミでは、授業で使う教科書を電子書籍で受講者の数だけ購入し、学生にiPadを配布してダウンロードさせています。 また、新刊本の冊子版と電子書籍版との同時刊行についても要請し、同意してくれる出版社が少しずつ増えてきました。図書館にはコレクションの幅が必要ですから、「品切れになると困るから新刊を買っておく」というのがこれまでの考え方でした。しかし、電子書籍には品切れがないので、本格的に同時刊行が実現すれば、書籍を「本当に必要な時に買う」ことができるようになります。例えば、学生が、「論文を書くためにある書籍を借りたい」と言ってきたら、まずは「ショート・タイム・ローン」という形で、図書館が出版社から電子書籍版を借りて、料金は借りた分だけ支払い、そんな人が4人も出てきたら、「トリガー」といって「引き金が引かれた」ことにして、正式に購入リーシートが全てPC入力になったように、すでに学生の世代ではデジタルは常識でもあります。これをさらに前進させるためには、まず、教員が自ら考え方を変え、積極的に図書館に働きかけることが必要です。日本の大学が知識情報基盤の環境変化に遅れをとらないために、教員・大学の積極的な対応が必要です。 卒業生や学生たちが本をきちんと読むことができ、レポートや論文をきちんと書ける。プレゼンも上手く情報リテラシーも高い――。そんな評価を得る人材を育てることが、私どもの目標です。そのためには、教員・図書館・出版社が一体となり、学生に必要なコンテンツを提供していく仕組みを作らなければなりません。 最後に、電子書籍は障害を持つ学生へのセーフティネットにもなります。私もメンバーの一員である立命館IRIS(電子書籍の普及に伴う読書アクセシビリティの総合的研究)は、電子書籍に音声読み上げ機能を標準装備するプロジェクトを立ち上げ、出版社の協力を得て実証実験を行い、2016年4月の障害者差別解消法施行に向けて取り組んでいます。 電子書籍の活用で、全ての学生の学びがより良いものになるよう、これからも尽力していきます。1955年、大阪府生まれ。大阪市立大学大学院創造都市研究科博士後期課程修了。博士(創造都市)。28年間の書店勤務の後、夙川学院短期大学特任准教授、立命館大学文学部准教授を経て2012年より現職。デジタル環境下における出版メディアの変容と図書館の役割について、実践的な研究・調査を行っている。学外では、日本出版学会・理事、日本ペンクラブ言論表現委員会・副委員長など、多数の委員や理事を務める。近著に『デジタル・アーカイブとは何か―理論と実践』(共著、勉誠出版刊)、『電子出版と電子図書館の最前線を創り出す―立命館大学文学部湯浅ゼミの挑戦』、『電子出版学入門―出版メディアのデジタル化と紙の本のゆくえ 改訂3版』(ともに出版メディアパル刊)がある。湯浅 俊彦(ゆあさ としひこ)8

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