IKUEI NEWS vol72
25/44

チュートリアルセッション 2015「リフレクション」とは気づきや学びを生む思考 例えば、初めて氷を見た幼い子どもが、それに触れてみたとする。子どもは、その冷たさに驚き、場合によっては指が氷にひっついて離れづらくなって、痛みや恐怖を感じるかもしれない。こうした経験をもとに、「世の中には冷たくて痛いものがあるから、注意しないといけない」という考えが漠然とでも子どもの頭の中に生じれば、それは「リフレクション(reection)をした」と言える。「リフレクション」とは一般的に、経験から学びを紡ぐ際に必要な、一種の抽象化ないし概念化の思考のプロセスを指す。 その他にも、「10年前のあの人のあの言葉は、どういう意味だったのだろうか」と過去の出来事について思考を巡らせることや、「自分は何者であるのか」といった実存的な問い、「社会において自分はどのような立場にあるのか」といった世界と自己との関係性を問うことも、「リフレクション」と呼ばれることがある。つまり、何かしらの気づきや学びを生むような思考は、広く「リフレクション」であると言ってしまっても良いのかもしれない。「リフレクション学」の誕生 このように、リフレクションの定義はやや曖昧で、幅が広い。だが、近年では特に、最初に記した経験学習の考え方に沿ったリフレクションの研究が目立つ。ここであえて「リフレクション学」と呼ぶそれらの研究は、いわば「人はいかにリフレクションするのか」、「経験から学びを紡ぐにはどうすれば良いのか」といった、リフレクションの方法論に関するノウハウの収集と分析、理論化を行う研究である。 人の学びや発達においてリフレクションが重要だということは、ジョン・デューイやドナルド・ショーンらによって古くから論じられてきた。しかし、その方法論についての研究は、近年まで驚くほど見られなかったのである。こうした中で、マックス・ヴァン=マーネンらは現象学的アプローチによって教師などが日頃から行っているリフレクションのプロセスを分析し、フレット・コルトハーヘンは理想的なリフレクション・プロセスとそれを実現するためのポイントの整理を行った。こうして「リフレクション学」が誕生したのは、1990年頃である。リフレクション学がもたらすものと今後の発展 「リフレクションしなさい」と言った際に、言った側も言われた側もリフレクションの方法について理解していなければ、その指示は極めて曖昧で無意味に近いものとなる。下手をすれば、教師などの意見を学習者がそのまま飲み込むことが「リフレクション」であるかのように語られてしまう場合もある。リフレクション学は、そうした、学習者自身の実質的な思考や学びを促さない「リフレクションのようなもの」をなくし、正しいリフレクションを普及することに貢献し得る。 最後に、リフレクションは伝統的に、ひとりで行うことが前提とされてきた。しかし、本質的な気づきを得るうえで「対話」や「他者の視点の獲得」が重要であることが指摘され始めている。今後は、対話を通した共同的なリフレクションについての理論化や方法論の確立が期待される。リフレクション学学習者が経験から得た気づきを、学びに繋げることを促す東京大学 大学総合教育研究センター 特任研究員  山辺 恵理子2022

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です