vol71
35/40

寒い海におばあちゃんが…… 私は神戸大学のカヌー部でマネージャーをしています。神大カヌー部は海上に作られた直線コースで練習しており、私はコース沿いの道で、自転車を漕いでタイムを計ったり、カヌーを漕ぐ選手をビデオで撮影したりしています。 2年生の2月のある寒い日、いつもどおり自転車を漕いでいると、おばあちゃんが海にあおむけで浮いているのが見えました。最初は何をしているのか分かりませんでしたが、先輩マネージャーが「この人が自殺しようとしている」と言ったのを聞いて、ようやく状況を理解しました。その時はとっさに「助けなきゃ」と思い、海に浮いているおばあちゃんに近づき、手をのばして陸に上がるように説得しました。「もう死ぬ」と言うおばあちゃんに、「海の中は寒いですから上がってください」と声をかけました。すると、おばあちゃんが私の手を掴んでくれたので、陸に引きあげました。「お姉ちゃん、ごめんね」 おばあちゃんが寒さで震えていたので、ベンチコートを着せ、お茶を飲ませたり背中をさすったり手を握ったりして落ち着かせようとしました。おばあちゃんはかなりパニックに陥っている様子で、「もう死ぬ」と言いながら泣いていました。私の祖母ぐらいの年齢のおばあちゃんに、何か死にたくなるほど辛いことがあったのかと思うと、とても悲しくなりました。 警察と救急車が到着し、命に別状はないものの、おばあちゃんがとても寒がっていたため、病院に搬送されることになりました。救急車に乗せられる前、おばあちゃんは私に「お姉ちゃん、ごめんね」と何度も言いました。 周囲に目を配り、異変に気づけるように その後、おばあちゃんの救助の功績が認められ、私は「のじぎく賞」を受賞しました。受賞の連絡を受けた時はとても複雑な気持ちでした。助けられて良かったとは思いましたが、おばあちゃんの苦しみの原因そのものに対処できなかったという無力さを感じており、授賞式の時も単純に喜ぶことはできませんでした。おばあちゃんが元気に生活できているかどうかが今でも気になっています。 私は、おばあちゃんは本当に死ぬつもりはなかったのではないか、と思っています。何かとても辛いことがあって、「誰かに気づいてもらいたい」「助けてほしい」と思い、それを伝える手段として自殺未遂を選んだのではないか、という気がします。このような悲しい決断をさせないためには、いつもと様子の違う人がいたら、でき得る範囲で周りの人が気にかけたり、声をかけたりすることが必要です。この出来事をきっかけに、自分の周りの人をより大切にしようと思いました。神戸大学 法学部3年 中川 明日菜人命救助の功績で兵庫県知事表彰「のじぎく賞」を受賞おばあちゃんが本当に伝えたかったこと「のじぎく賞」の賞状。授賞式の様子(右の女性が中川さん)。32

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です