vol71
13/40

香川 靖雄(かがわ やすお)1932年生まれ。東京大学医学部医学科卒業、東京大学大学院生物系研究科博士課程修了(医学博士)。東京大学医学部生化学助手、コーネル大学生化学分子生物学客員教授、自治医科大学生化学教授等を経て1999年より現職。日本医師会医学賞受賞(1985年)、紫綬褒章受章(1996年)、瑞宝中綬章受章(2006年)。著書に『時間栄養学』『科学が証明する新朝食のすすめ』(女子栄養大学出版刊)ほか多数。生徒の全国学力テストの成績が全国1・2位であるのと同時に、全国体力テストの成績も高いのである。 財団法人日本青少年研究所が平成22年に発表した国際比較では、日本の高校生は授業中に居眠りする生徒が24%もいるのに対して、米国は11%、中国は4.7%に過ぎない。その原因として、日本の高校生はこれらの国の高校生に比して1.5時間から2時間の夜更かしであり、朝食も取らないか簡単に済ませている実態がある。したがって、教員の努力にもかかわらず、学生の脳が授業を十分に受け入れる体制にないのである。 米国では、学校朝食を始めている。ハーバード大学の精神医学教室で、学校朝食の成果を調べた結果、朝食給食を取っていた38%の学童は、取っていなかった62%の学童よりも、数学の成績が高いだけでなく、問題行動も少なく、遅刻や欠席も少ない。少子化時代で、一人で朝食を取る子どもが日本では40%にもなるが、学校朝食ならば、楽しく食べて、情緒的発達にも良い。日本の大学でも始まりつつある朝食環境の改善 学業成績が朝食の有無で大きく変わるのは、脳の活動が日周リズムに依存するのが原因である。朝食では、脳に唯一のエネルギー源であるブドウ糖を供給する他、他の栄養素が揃うことが時計遺伝子の始動に不可欠である。ブドウ糖は肝臓グリコーゲンからも供給されるが、これは食後16時間で消費されるため、朝食欠食で血糖値の低下に伴って、脳の活動が低下する。これだけではなく、日周リズムを駆動する時計遺伝子は、朝食における蛋白質等の栄養素の摂取量をモニターする機能を持っている。その結果、学業成績は朝食の品数の多いものほど高いという熊本県の調査や、おにぎりよりも、洋定食の摂取者の暗算能力が高いことが確かめられている。 しかしながら、全国31万人の小学5年生、21万人の中学2年生の朝食を全国学校栄養士協議会が調査したところ、主食と副食を併せて取っている者は僅か4割に過ぎないというのが現実である。表面的には食糧は豊富に見えて、未来の日本を背負う世代の貧しい朝食習慣は、頭脳の発達を妨げ、学力の低下を招いていると考えられる。国際試験にも多種類あるが、世界中で最も多数が受験して、厳格な比較が可能なTOEFLの成績を見ると、日本の一流大学の学生は、アジアはもとより世界でも最低水準の70点である。世界の指導者を育てるハーバード大学、コロンビア大学、スタンフォード大学に入学できる100点に達する日本人学生が稀であることは深刻な問題である。 米国や中国の一流大学は全寮制が多いため学生の成績が高く、また、正しい朝食摂取をはじめ生活の規律が整っている自治医科大学や防衛医科大学校の医師国家試験合格率は、自由放任の生活を送る東京大学医学部学生よりも優れている。これらの事から最近は東京大学等でも寮の食事の改善が図られるようになり、学生食堂で栄養バランスのとれた朝食を提供する大学も僅かながら現れたことは好ましいことである。10

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です