IKUEI NEWS_69
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溝上 慎一『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』東信堂刊※外化:文章や会話、発表などを通じて、自分の頭の中にある思考を外に出すこと。アクティブラーニング6つの誤解京都大学 高等教育研究開発推進センター 教授 溝上 慎一電通育英会と共同研究を行っている京都大学の溝上慎一教授が、これまでのアクティブラーニング研究の集大成ともいえる『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』を昨年の10月に出版されました。同書第5章「揺れる教授学習観」の抄録をご紹介します。 アクティブラーニング型授業は、これまでの伝統的な講義形式の授業から、学生の学習を中心に、聞く・話す・発表するなどの活動と、その活動に伴う認知プロセス(知覚・記憶・言語・思考)の外化※を精いっぱい組み込んで行う授業へと転換させる(=学習パラダイムへの転換)ための、新しい教授学習概念である。この背後には、社会の変化に呼応する学校教育の役割の再構築があり、ただディスカッションさせればいい、発表させればいいといった単純な学習活動の拡張を意味するものではない。学生が伝統的な講義形式の授業を好むからアクティブラーニングを導入しなくていいとか、そういう問題でもない。 アクティブラーニング型授業は、新しい時代の教育課題を理論的にかなり取り込んだ、包括的な教授学習概念である。ここがこの用語の理解を難しくさせているところであり、自身の経験や頭だけでアクティブラーニングの意義を、特に「アクティブ」という字面だけを見て理解しようとすると、大きな誤解を招くことにもなる。私が講演やシンポジウムを通して受けてきたコメントや質問から、6つの誤解を紹介する。(1) アクティブラーニングは座学ができない  学生のためのものだ(2) 知識の定着率を上げるのが  アクティブラーニングだ座学が弱い学生、講義では学習に動機づけられない学生が、アクティブラーニングによって学習をより行えるようになる、知識定着率が上がるという報告は確かに出ている。それ自体は素晴らしいことだ。しかし、それは従来の教育課題を克服したものであり、新しい教育課題に対応しているとは言えない。それだけでアクティブラーニングの意義は語れない。(3) アクティブラーニングに正解はない「答えは一つではない」と言うべきだ。問題解決のプロセスには、用語や概念などの正しい知識・理解が求められている。(4) プロジェクト学習だけやっておけば十分。   それで社会で通用するこの考え方は企業人からよくいただく、学校教育の役割を上澄みの成果だけでとらえた最悪な理解だ。学生がよいプロジェクト学習をできるようになるまでの基礎を、学校教育がいかに担っているかに思いを巡らせて欲しい。(5) 3・4年生の専門ゼミ・卒業研究でアクティ   ブラーニング型授業はしっかりやっている   ので、1・2年生では要らないこれもよくあるコメントである。1・2年次の教養系科目のアクティブラーニング型授業は、3・4年次の専門科目のそれと比べ、知識が扱いやすい、参加する集団の異質性が高いなどの相違点があり、そこで培われる能力は同じものではない。両方のバランスがとれた、より豊かな情報・知識リテラシーを育てるべきである。(6) 技能・態度(能力)はクラブやアルバイトで    鍛えればいい。アクティブラーニングで 育てる必要はないおしゃべりの得意な者が、問題解決や議論に必要な知識を十分に持っていない時、何もしゃべれない状況に至ることを思い起こして欲しい。課題に対する議論や発表は、専門的・教養的知識を伴った学習である。クラブやアルバイトは豊かな関係性・社会性を育む活動として私は重要だと理解している。しかし、学習の観点から見て、クラブやアルバイトだけでは十分ではない。4

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