IKUEI NEWS_69
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山地 弘起(やまじ ひろき)1959年、香川県生まれ。1983年、東京大学法学部卒業。1989年、東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教育学部助手、メディア教育開発センター研究開発部助教授、長崎大学・大学教育機能開発センター准教授を経て、2013年より現職。専門は教育心理学。に取り組んで欲しいし、一方で視界を広くして、自分の過去や未来を踏まえた現在の過ごし方を考えて欲しいと思う。 後者の「視界を広くする」ことに役立つ一つの方法は、漠然と未来に向いている自分の視線を意識的に過去と現在に向け直すことである。読者諸君の多くはこれまで「子ども」という位置から親や社会を見てきたことと思うが、今や身体能力は人生の中でピークにあるだろうし、精神面の諸能力もほぼ大人並みになっている。この段階で、誕生時からの自分の周りの人間関係や社会状況に広くサーチライトを当て、これまで当たり前に思ってきたそれぞれの人のあり方を客観的に理解し直しアップデートすることが、今の自分自身の捉え方や課題をアップデートすることに繋がる。つまり、子どもから社会人への立場の変化に際して、新たに獲得されている能力に基づいてこれまでの世界の見え方を吟味するという作業である。主体性の根拠となるセルフ・コンテキストとは、こういう作業を踏まえて自ら選び取った自分の位置づけや方向性である。 さて、目前の課題に自分にとっての意義を見出すことができれば、その後の学びの充実の度合いは主に対話的思考力の如何によると思われる。アクティブラーニングでは、最終的に何らかの問題解決や制作を目指すことが多いが、そこに焦点をおいた様々な活動の中で、論理的・批判的・創造的に考えることが活性化される。考えることとは自分自身や他者との対話過程であり、互いに反応し表現し調整するという密度の濃いやりとりが不可欠である。新たな課題とそこで協働する人々との間で、自分の思い込みに気づいたり、新たな視点を学んだり、役割モデルを見つけたり、協働して達成することの面白さを感じたり、といったことが対話的思考の成果であり、そのためには防衛的にならず自由に考えを表明できる場を互いに支え合えなければならない。積極的にコミットできるアクティブラーニングが、学生間の「自分を育てる」意識の共有に繋がる こうして「主体的な学び」とは、課題設定・解決の両局面で学生が自分の成長に十分コミットするということであり、場合によっては、授業で予定された活動を教員や周囲の学生に働きかけて変えていくことも有り得る。したがって、アクティブラーニングを設計する教員の立場では、学生にとっての学習課題の意義を明確にするとともに学生との調整の機会を持つことや、学習の展開場面においてTAやSA(先輩学部生)などのサポートも得て、学生の目線に近いところで対話的思考を促進することが重要となる。関連した学習リソース(学習に役立つ情報源や学習技能)を提示する一方、学生とともにそれを豊かにしていければ、学習過程に学生がさらにコミットする機会を提供できる。 こうした方針がカリキュラムの中で共有されれば、学生にとって「主体的な学び方を学ぶ」効果的な環境となり、学生間で学びを支え合う風土が作られていくことが期待できる。アクティブラーニングを通して「自分を育てる」という意識が学生間で共有されることが、それぞれの「主体的な学び」に導くのである。8

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