大学貸与奨学金

先輩の留学報告

「先輩の留学報告」一覧へもどる

平成19年度生
岩手大学 人文社会科学部国際文化課程 卒業  佐々木 理絵

留学の目的

アメリカの大学院でコミュニケーション重視の英語教授法を学び、 修士号を取得すること

期間

平成20年6月〜平成21年12月

留学校

セント・マイケルズ大学(アメリカ合衆国)

学部

応用言語学部 TESOL学科

2008年6月、念願であったアメリカ大学院での生活が始まりました。 大学院留学を志したのは、これから英語教員として働くものとして、従来のような指導法ではなく、 学習者主体、コミュニケーション重視の教育を行い、英語学習をより実践的なものにしたいと考えたからです。 留学先に選んだ大学院は、大学時代の恩師の薦めもあり、英語教育の理論だけでなく実践的な内容も十分に 学べるセントマイケルズ大学大学院(バ—モント州)にしました。大学院ではTESOL(英語教授法)を専攻し、 英語教授の歴史や移り変わり、また言語学的な側面を学ぶ学術的なものから始まり、リーディング、ライティング、 リスニング、スピーキングの具体的な指導方法やテクニックを学び、それを教育実習を通して更に実践的に理解を 深めていくというのがTESOLプログラムの主な流れです。

大学院に入学した直後に取ったクラスは夏季の集中講義に当たるものだったので、 短期間で膨大な量の課題をこなすことに加えて、初めてのアメリカの大学院生活で日本とは異なる 学習スタイルに適応することが一番の課題でした。日本の学校で高く評価される学生は、授業を静かに聞き、 テストで好成績を収めた人というのが定番だと思います。しかし、アメリカで高く評価される学生は、 テストの成績に加えて、授業中によく発言を出来る人なのです。成績項目にもparticipation(クラス参加)として、 どの授業でもディスカッションやグループワーク、クラスでの発言が成績の30%ほどを占めていました。 これまですっかり日本の学習スタイルに慣れていた私は、どのように教授に質問をするべきか、 ディスカッションはどのように進めればよいのか分からずにかなり苦戦したのを覚えています。 毎日クラスメートを観察したり、グループワークを通した過程でディスカッションやクラスでの発言にも 徐々に抵抗がなくなっていきました。プログラムが進むにつれて、個人での発表やプレゼンテーションも 多くなっていったので、この時の経験は後にとても役立ちました。

リスニング、スピーキングのクラスでは授業中に習ったことをもとに個人でアクティビティを作成してクラス内で 発表する機会がほぼ毎時間ありました。 大学院の授業ではオンラインを利用して教材を見つける方法も学び、書籍だけでなくインターネットを活用した 教材作成方法を学べたことはとても画期的で、これからの教員生活でも大いに役立つだろうと思います。 毎回の課題に対してフィードバックが与えられ、対象とする学習者のレベルや母国語、性質などを考慮しながら 一つ一つアクティビティを作る、という過程から学べることは多かったです。 同じ学年、年齢だからといって学習者の英語レベルが他の同年齢の学習者と同じだというわけではなく、 同じ学習環境にいても学習者の性質はそれぞれ異なるのでそれに合った学習内容を用意することが大切です。 教材から問題をそのまま引っ張ってくることは容易で時間の短縮にはなりますが、もっと学習者の英語レベルの ことや補うべき技能について考慮して問題を選び、作成することの重要さを教授からのフィードバックからたくさん学びました。

ライティング、リーディングのクラスで特徴的だったことは授業の一環として英語プログラムの学習者に対して 15時間ほど英語を教えることが義務付けられている点でした。 バーモント州には英語プログラムがある大学はセントマイケルズ大学のみで、世界各国からの留学生が年間を 通して英語を学びにやってきます。 私が担当した学習者はパナマとギリシャからやってきた学生たちでした。彼らと出来るだけ多くコミュニケーションを とることで趣向を知り、興味のありそうなテーマをもとに毎回リーディングの教材を用意しました。 これまでリーディングを教えるときには教材にあるものをそのまま利用することが多かったのですが、 面白そうな記事であまり長すぎなければ新聞の記事や伝記などを利用して出来るだけ学習者用に修正されて いない教材を使うこともよくありました。 ちょうどいい文章の長さで学習者にとって適当な語彙が使用されている記事を探すのはなかなか難しい作業でしたが、 興味のあるテーマを用いれば学習者が率先して内容を理解しようとすることに気付きました。 もちろん英語を教えている期間、失敗も経験しましたが、この時に学んだ大切なことは、学習者とのコミュニケーションを大切にし、 お互いに尊敬し合える関係を作ることでした。 大学院に入ってとても感動したことが、どの教授も大学院生を学生ではなく、同僚、また同じ研究者として尊敬しあえる関係を作ろうと してくれることでした。 面白いことに、学期末にある大学院のクラス評価には必ず、教授が学生に対して敬意を示していたかどうかという項目が含まれていました。 それだけ生徒と教師という立場であってもお互いを尊敬するということが重んじられる風習に心地よいカルチャーショックを受けたことを覚えています。

大学院ではこれまで学んだことの集大成として、最後に教育実習が課せられています。 はじめに大学に併設されている英語プログラムで教えるか、地元の難民英語学習者に教えるかを選ぶことが出来ます。 英語プログラムの学生はどちらかというとアカデミック英語でレベルも比較的高めです。 バーモント州はアフリカやアジアから難民を積極的に受け入れているところで、英語も全く分からずアメリカにやってきた 人たちのために英語を無料で学べる施設がいくつかあります。彼らに必要なのはアメリカで生き残るためのサバイバル英語であったり、 日常英会話です。英語レベルはアメリカ滞在年数に比例するものなので、クラスの中には様々なレベルの生徒が混在しています。 私は後者の難民と移民の生徒が入り混じった成人英語学習センターで初級英語を教えることになりました。 クラスの顔ぶれは、中国、イラク、ブータン、ブロンディ(アフリカ)からで、みんな40歳台の方々でした。 英語を書けたり、文字として認識できる生徒の数がまばらだったので、授業は出来るだけ視覚で認識できるように絵を たくさん用意して臨みました。扱った項目はどれもすぐに使えるように日常生活に密着したテーマを取り上げました。 授業中に習った単語や文法は素早く確認して、出来るだけ多くの時間をゲームを通して生徒が新しい項目を練習できるように工夫しました。 一度聞いただけで覚えるのは困難な様子だったので、クラスメートに復唱させて見たり、同じような内容を異なるアプローチで 聞いてみたりしてとにかく一緒に練習しました。生徒たちはいつも学習に熱心で私の話を真剣に聞き、時にジョークを言ったり、 ゲームもとても真面目に取り組んでくれました。生徒はいつも笑顔で、私の説明が多少至らないときにはクラスメート同士で 教えあったりするなど、とてもいい雰囲気の中で教育実習を行うことが出来ました。 毎回絵を使ったり、ゲームを駆使した授業をしていたので、授業準備には膨大な時間がかかり、1時間半の授業のために2日以上かかって 準備をすることもよくありました。 これからは高等学校で英語を教えるときにこの経験がとても役立つと思うので、視覚効果やゲームを使った授業を積極的に 取り入れていきたいと思っています。

私がアメリカの大学院に留学した目的はCommunicative Language Teaching(コミュニケーション重視の英語教授)を 学ぶことでした。もっとこの分野についての知識を深めたいと思い、修士論文を書くことに決めました。 セントマイケルズ大学では、卒業に必要なのは修士論文(50ページ以上)か、教授理念(10ページ程度)を 書いて口頭試問を通過することです。私の論文のテーマはコミュニケーション重視の英語教育に必要な要素は何かを検討し、 それがどの程度現場で生かされているのかを調べることでした。日本での英語教育についてリサーチしたかったので、 セントマイケルズ大学と提携を結んでいる金沢工業高等専門学校(金沢高専)に依頼をしてアンケートを取っていただきました。 私にとっては初めての本格的な実験を伴うリサーチだったので、金沢高専、担当教授には大変お世話になりました。 初めてということもあり、なかなか研究がスムーズに行かない面もあったのですが、このおかげで今は要領がある程度分かるので、 他の論文も読みやすくなりましたし、今後現場に立った際には併せて研究も行っていきたいと考えています。 大学院生活を通して、幸運にも学生アシスタントとして英語プログラムに留学している学生を助ける仕事をすることが出来ました。 英語プログラムは英語の授業だけでなく、毎週末にボストンやモントリオール(カナダ)に小旅行に行ったり、 近くの施設でアクティビティが組まれていたりします。こうした活動に付き添い、プログラムの学生たちが有意義な時間を アメリカで過ごせるように計らうのが学生アシスタントの役目です。英語プログラムには色々な国からの留学生が来ていて、 彼らと話をすることで彼らの文化について学べることや、英語学習者がどういう場面で言語的助けが必要なのかを観察出来たのは、 英語教師を目指して大学院で学んでいる私には大変有意義なプラスアルファでした。

大学院ではアメリカ人の学生が8割で残りは世界各国からの留学生でした。 クラスメートはこれまで母国や外国で英語を長年教えてきた経験のある人たちが多く、彼らのおかげで見識が広がりました。 また、彼らの話をもとに、出身の国や文化によって生徒への接し方に細心の注意を払えるようにもなりました。 留学生の友人たちと話をしていると、英語は母語話者のものだけではなく、第二外国語として習得することでこんなにも自分の 世界を広げられるのだということを日々実感する毎日でした。彼らもまたアメリカに留学するのは初めての人たちが多かったので、 グループで出かけたり、アメリカ人の友人にアメリカの文化について一緒に教えてもらうこともありました。 これまで英語は教科書を用いて、教室内で学んできた私ですが、言語というのは文字と発話だけで成り立っているものではなく、 その言語の使われている文化の果たす役割もとても大きいと思います。英語教授法は日本国内でも学べますが、大学院内外で アメリカ文化を直接経験した上で、英語教授法を学べたということは人生の中でとても貴重な経験であったと思います。

以上の様に大学院では充実した日々を送ることができ、2009年12月に英語教授法で修士号を無事取得することが出来ました。 これから私は宮城県の公立高等学校で英語教員として働くことになりますが、その時に大学院での学習をもとに私の生徒たちに コミュニケーション重視の英語学習を体験させられるように務めたいと思います。