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先輩の留学報告

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平成16年度生
東京音楽大学音楽学部音楽学科卒業  菊地 加納

留学の目的

「自分」の音楽をより確かに持ち、表現する力を得ること。

期間

平成17年10月~平成19年9月

留学校

国立音楽院ベネデット・マルチェッロ(イタリア)

学部

旧制コースピアノ科上級

1、2005-2006年度

2005年ヴェネツィア国立音楽院ベネデット・マルチェッロ入学
M.Somenzi氏レッスン開始
時期:11月~
目的:〔1〕年度末実技試験へむけての準備
〔2〕失敗を恐れず最大限の挑戦をし有意義な留学生活のスタートを切ること
内容:週1度のピアノ実技レッスン(一時間~一時間半)と、週2度の室内楽実技レッスン(L.Messinis氏)を受ける。
実技レッスン以外は学生の自主性にまかされていて、音楽院内の発表会やオーディション、また音楽院外のコンクールやオーディション等、指導教員と相談の上適切なものに挑戦することで、各自のレベルや問題点、目標に合わせた音楽学習を進めていく。
経過:詳細な経過報告として以下小項目に記述する

◆2006年フェニーチェ歌劇場管弦楽団と共演のソリスト選抜校内オーディション挑戦と演奏会

時期:1月下旬(オーディション)、3月上旬(演奏会)
目的:世界的オーケストラとの共演という、キャリアとして大変重要な機会と経験を得ること
経過:モーツァルト作曲ピアノ協奏曲第20番Kv.466を選曲し、師と共に毎週のレッスンでより深い音楽解釈と、その忠実な表現を目指す。
オーディションでは審査員の指示による抜粋箇所を演奏、合格発表後の準備期間ではより確実な暗譜とオーケストラ伴奏と対向しても浮き出て聴こえるような音色の追求に重点を置き、さらなる練習を重ねる。
演奏会は全曲演奏で、二夜行われた。
結果:オーディション通過、そして演奏会も大成功し、「Il Gazzettino」紙上において高評価を得るという期待以上の結果を残すことができた。
モーツァルトという作曲家は自分のこれまでの演奏活動の中でも経験が少なく、この経験を通して知った新しい得意分野と言える。この挑戦と成功は、今後の活動の上でキャリアとして有益なだけでなく、自分らしい音楽の組み立て方に自信をつける良い機会になった。

◆2006年SaggioFinale演奏会出演オーディション挑戦と演奏会

時期:3月下旬(オーディション)5月中旬(演奏会)
目的:ソロ・室内楽両方における、学年末試験へむけての予行練習を兼ねた舞台経験の強化
経過:ソロではドビュッシー作曲「映像」第一集を選曲、レッスン以外にも積極的に録音等をして客観的に演奏を聴き、ドビュッシーらしい柔らかな音色と印象派絵画的な「映像」をイメージさせる音楽を目指す。
バイオリンとの二重奏、ソプラノとの二重奏という二つのグループで挑戦した室内楽ではモーツァルト作曲バイオリンソナタヘ長調と三つの歌曲を選曲、モーツァルトの室内楽において特徴的な、明るい宮廷サロン的な雰囲気を出しつつ息のあった演奏を目指す。
結果:ソロ、室内楽ともオーディションを突破し、演奏会においても高評価を得ることができた。とくにソロにおいては、長年の経験を経た曲であったこともあり完成度が高く、自分としても大変満足度の高い演奏をすることができた。

◆2006年学年末実技試験

時期:5月下旬
目的:一年間の勉強の総まとめと、来年度の進級学年を決定する試験。
経過:ドビュッシー作曲「映像」第一集、モーツァルト作曲ピアノソナタイ長調を選曲。
SaggioFinale演奏会等での公開演奏後、二人の作曲家の違いをしっかりと出すことに重点を置いて練習する。
結果:Dieci e lode(賞賛付き満点)を得て来年度10年生(最終学年)に認定される。
非常に光栄な評価を得たことで、この留学における勉強の方向性への自信を持つことができた。

2、2006-2007年度

2006年ベネデット・マルチェッロ音楽院新年度開始、Diploma試験に向けての準備
時期:11月~
目的:〔1〕更に積極的な音楽活動への挑戦
〔2〕Dieci e lode以上の点数を得ての国家Diploma取得
内容:前年度同様、週1度1時間半の個人レッスン、週2度の室内楽レッスン、それらへ向けての毎日の練習。Diplomaは国家資格であり、音楽院はDiploma取得を持って修了となる。試験には、異なる時代から選ばれた4曲以上からなる一時間超のプログラムの演奏と、2曲のピアノ協奏曲に関する演奏及び口頭試問が行われる。長大なプログラムとなるため試験当日までの練習スケジュールの組み方も非常に重要になるものであった。

<ソロ・プログラム>
ベートーヴェン作曲 ピアノソナタ第31番
シューマン作曲 「謝肉祭」
サン=サーンス作曲 練習曲作品111-4
アルベニス作曲 「イベリア」第2集 ロンデーニャ、アルメリア、トゥリアーナ
<協奏曲>
モーツァルト作曲 ピアノ協奏曲作品488
ラヴェル作曲 ピアノ協奏曲 ト長調

1年で準備するため、私のとった方法は、1,2ヶ月間1曲もしくは1組曲に集中して公開演奏を行い、それを繰り返しながら本番に慣れるとともに内容を深めていくというものである。
経過:詳細な経過報告を以下小項目に記述する

◆2006年Societa' Umanitaria音楽コンクール挑戦

時期:10月中旬
目的:イタリアにおける重要なコンクールへの挑戦、本番の経験を積むとともに最大の結果を残す
経過:前年度における年度末試験受験曲に、ショパン作曲「子守唄」を追加してのプログラムを準備。休暇中においてもSomenzi氏のレッスンを受け続け、長いプログラムを一連の流れとして観客を楽しませることのできる演奏を目指す。
結果:90組中15人程度に絞られたファイナルに進出。入賞はならなかったが審査員の方々から貴重なアドバイスを得ることが出来、また重要なコンクールのファイナリストというキャリアともなった。受験の傍ら、出場者との交流や、近郊都市への訪問なども良い刺激となった。

◆2006年Monfalcone音楽セミナー受講と修了演奏会

時期:12月上旬
目的:Diploma試験曲習得にむけての集中的な勉強
経過:師事する音楽院の教授であるSomenzi氏の指導するセミナーで、約一週間の間一日おきのレッスンという集中したスケジュールで勉強。最終日には修了演奏会に出演、Diploma試験へむけての第一歩としてシューマン作曲「謝肉祭」の公開演奏をおこなった。
結果:修了演奏会で短期間に仕上げた試験曲中一番の大曲を演奏、成功したことで今後のDiplomaへむけての練習予定の組み方がはっきりした。

◆2007年Riccione市音楽コンクール挑戦

時期:2月中旬
目的:Diploma試験曲習得にむけての公開演奏と、コンクール入賞
経過:ベートーヴェン作曲ピアノソナタ第31番と、ドビュッシー作曲「映像」より水の反映を選曲。2ヶ月間という短い期間であったが一番の難関である暗譜もクリアできた。
結果:カテゴリー第1位受賞、当日夜に行われた特別賞及び全カテゴリー総合順位決定をかねた受賞者演奏会でも見事に総合第1位を受賞することができた。

◆2007年演奏会"Musica Insieme"出演

時期:3月上旬
目的:イタリア国内での演奏経験と、室内楽の勉強
経過:音楽院で室内楽クラスとして共演していたソプラノ歌手の学生とのデュオで、シューマン作曲の歌曲集「リーダークライス作品39」を演奏。お互いが忙しい中で暇を見つけては練習をし、詩の研究や楽曲解釈に重点をおいて勉強していった。
結果:Pordenone市にて行われた演奏会は大成功し、翌日の「Corriere」紙では「円熟した演奏」と大絶賛された。室内楽レパートリーとして非常に重要な歌曲集であり、演奏の幅を大きく広げることになった。

◆2007年演奏会"Antiruggine"出演

時期:6月上旬
目的:Diploma試験予行をかねた公開演奏と、ピアニストとしての経験
経過:音楽院で師事するSomenzi氏の紹介で、Castelfranco在住の世界的チェリスト、マリオ・ブルネッロ氏の主宰する演奏会Antiruggineの出演の機会をいただいた。「謝肉祭」を楽曲解説トーク付きで演奏、という依頼であった。
結果:演奏、そして心配されたイタリア語でのおしゃべりも、お客様に楽しんでいただくことができた。日本では是非トーク付きの演奏をメインに活動していきたいと思っていたので、イタリア語でこなせたことが非常に嬉しく、これからへの自信に繋がった。

◆2007年卒業試験

時期:6月下旬
目的:Dieci e lode(最高得点)を得てのDiploma取得
経過:上記のような経験を経て準備万端整えて試験に挑んだ。プログラムは前記したとおりに変更はなく、試験は一般公開で行われた。音楽院の友人や先生が大勢訪れてくれる暖かい雰囲気のなかでの試験であった。
結果:目標であったDieci e lodeを得ることができた。演奏も1時間半弱という長いプログラムへの初挑戦であったが、集中力を持続して演奏することができ、本当に満足の行く出来であった。
2年間の留学を締めくくるにふさわしいプログラム、そして結果を得られたと思う。

3、その他の留学の成果・生活の状況

留学中は、個人的にリースしていたピアノを使っての自宅練習と、学校でのレッスンや室内楽の練習を中心に、毎日規則的に生活を送ることができた。友人関係はほとんどが音楽院の友人で、イタリア人を中心に様々な個性、意見を持つ音楽仲間との息抜きや語らいも日常であった。
ベネチアは世界に誇る世界遺産都市であり、その中心に位置する音楽院への通学は、そのまま世界遺産見物だ。天気や時間など、一年通して様々な顔を見せるベネチアを感じることができたのは、住んでいるものの特権である貴重な体験であった。

フェニーチェ歌劇場をはじめ大小の劇場では、年中様々なオペラやオーケストラ、室内楽や器楽ソロのコンサートが行われており、学生券を利用してたくさんの公演に通ったが、思い出に残る素晴らしい公演も何度かあり、それらを通してもたくさんのことを肌で学ぶことができた。
劇場のほかにも、時間を見ては教会をたずねてみたり、行ったことのない界隈を歩いてみたりして、時間をかけてのベネチア探索も面白い経験であった。

留学中の音楽活動はすべて学校を通して行われていたが、音楽院卒業後、わずか2ヶ月であったがいくつかの機会を得ることができた。

2007年7月Gorizia市で行われたSeghizzi国際歌曲コンクールで公式伴奏者を務め、6人の出場者の伴奏をし、これまでのような「一出演者」ではなく、スタッフの一人としてコンクールを裏側から経験する貴重な経験となった。
この依頼のきっかけは、音楽院での室内楽の授業でともに学んでいたソプラノ歌手との演奏である。室内楽の勉強は、他人と合わせなければならないという意味で非常に時間と神経を割くことだが、一見遠回りに見えることでも興味があるなら怠けずに積極的にやることが、結果的に良い連鎖を生み出すのであろうかと実感した。
また審査員として来伊していた日本人音楽家とのコンタクトがこれをきっかけにはじまったことも、今後にむけて重要であった。
また、2007年8月Siena市で行われた第76回Chigiana音楽院サマーコースを受講し、世界的ピアニスト及び教育者であるJ.Achucarro氏の指導のもと、オーディションを突破した11人のクラスメイトとともに17日間の夏期講習生活を送った。
イタリアで最も古く権威あるサマーコースであるこのコースには、ピアノはもとより弦、管、声楽、指揮に世界的な演奏家が講師として訪れ、期間中はすべてのレッスンを自由に聴講することができる。世界中から訪れる受講生のレベルも非常に高く、毎晩行われる生徒や先生の演奏する演奏会に無料で行くことができたほか、レッスン以外の時間にも友人たちと練習や連弾、合奏を一緒に楽しんだり、家にあつまって食事やおしゃべりを楽しんだりと、非常に濃密で楽しい日々であった。日曜にはバスに乗って近郊の小都市へ出かけたり市内を観光したり、そもそも会場となるのがシエナ随一の美しい宮殿であったりして、音楽に限らず素晴らしい遺産、芸術作品の数々に触れることができた。
またS.Fiora音楽祭への出演や、修了演奏会への出演等の機会もあり、それぞれの演奏はクラスメイト、先生、聴衆からも好評をいただいた。2年間の留学の締めくくるにふさわしい本当に充実した17日間であった。
帰国に際しては、これまでお世話になったたくさんの先生方や友人から激励の言葉をいただいた。
そして2008年11月にはベネチアで、国立音楽院を満点で卒業した若いピアニストがイタリア全国から集まって挑戦する非常に重要なコンクールが行われる。このコンクールを受けに帰ってくるのを待っている、という彼らの期待に恥じないよう、今後も勉強と挑戦を続けていきたいと思っている。