大学貸与奨学金

先輩の留学報告

「先輩の留学報告」一覧へもどる

平成18年度生
筑波大学第二学群人間学類4年  濱谷 美緒

留学の目的

アメリカにおける障害に対する考え方、サポート体制を学ぶこと。

期間

平成18年7月~平成19年5月

留学校

南インディアナ大学(アメリカ合衆国)

学部

私は、昨年7月よりアメリカ合衆国南インディアナ大学で筑波大学からの交換留学生として10ヶ月間学んできました。南インディアナ大学は、看護学やリハビリテーション科学の授業が充実しており、私の所属する筑波大学人間学類心身障害学主専攻と協定を結んでいます。私は将来、言語聴覚士という職業に就くことを目標とし、筑波大学では言語障害、聴覚障害、学習障害を専門に勉強していました。今回の留学の目的は、日本とアメリカにおける「障害」という概念に対する考え方の違いや、障害を持つ人々を取り巻く環境の歴史と現状でした。

留学先の大学では、心身障害学という筑波大学での主専攻と全く同じコースはないため、様々な分野から自分の専門に関係のある授業や、興味のある授業を選んで受講しました。一番印象が強く多様な経験ができたのは、ソーシャルワーク分野の「現代社会における障害者問題」という授業です。この授業は少人数制で、毎回提議される様々なテーマについてディスカッションをしました。アメリカの障害者をとりまく環境に大きな影響を与えた要因の一つに、ADA法(障害を持つアメリカ人法)があります。障害を持つ人々に対する差別を禁止するこの公民権法が制定された1990年以降、障害を持つ人々の生活がどの様に変化してきたかというテーマはこの授業の中で特に重点的に取り扱われました。なかでも、ソーシャルワーカーが障害を概念化し、障害者が社会においてどのような扱いをされているかということの解釈をする際に役立つ「障害差別モデル」はとても勉強になりました。これは、ソーシャルワーカーが問題を解決する際に、障害差別を医療、教育、経済など様々な側面からモデルに当てはめて分析するためのモデルです。これは街の病院でスピーチセラピーを見学させてもらった際にも感じたことですが、アメリカではサポート体制の専門化が進んでいると言えます。各分野の専門性が高まることはサービスの質を高める一方で、包括的な視点を欠落させる恐れがあります。常に社会全体を見るソーシャルワーカーはもちろんのこと、各分野の専門家も他のいろいろな要素との相互作用を考慮しつつサービスを提供できる広い視野を持つことの必要性を感じました。今後、言語のリハビリテーションサービスという専門分野で働くことを目指す自分にとって、この授業はとてもよい経験だったと思います。

この授業の他にも、看護学コースの栄養学と医療用語学、教育学コースの子供のアセスメントに関する授業やアメリカ手話の授業、コミュニケーション学コースのスピーチや個人コミュニケーションの授業などをとりました。これらを受講して、授業の内容そのものだけでなくその背後にある文化の違いや共通点を知る機会が数多くありました。特に栄養学の授業では、基礎的な人体生理に関する知識から、アメリカ政府の推奨する栄養摂取量などまで幅広く学びました。特定の食品に制限のある患者さんのために献立を作るグループワークなどはとても実践的で興味深かったです。しかし政府の推奨している栄養摂取量などを学んで、それがいかに国民に広く浸透していないかということを感じずにはいられませんでした。スーパーで売られているものや学校のカフェ、自動販売機の商品をみていると、「食育」というものが実践されているとは言いがたいのが現状でした。それらは、結果的に医療や介護といった分野と強く結びついています。あらゆる意味で、経済的な利益のみを追求する恐ろしさに気づく必要があると感じました。

大学での授業の他にも、個人的にいろいろな現場を見学する機会に恵まれました。春休みには、ワシントンDCにあるギャローデット大学でアメリカ手話の世界を体験しました。英語でのコミュニケーションに苦労しなくなってきた時期に、聾の世界にある大学を尋ね、改めてコミュニケーションの難しさを感じると共に、お互いの意思が伝え合えたときの喜びも感じました。大学の周辺では、南インディアナ大学のあるエヴァンスビルという街の病院や、小学校でのスピーチセラピーの様子を見学させて頂き、さまざまな質問をしてきました。そして、スピーチのセラピストという職種の知名度が日本よりはるかに高く、同じセラピストであってもそれぞれの専門が特化していることを実感しました。言語聴覚士という職業が国家資格になってからまだそれほど歴史の長くない日本においては、アメリカなど他の国々から学ぶ知識や技術は数多くあると思います。しかし、日本は研究による実証に基づいた臨床を今後取り入れて発展させる可能性や柔軟性を持つというプラスの考え方もできます。どちらの国でも、セラピストの方々がよりよいサービスの提供を目指している姿勢が印象的でした。

今回の留学を通して得たものはたくさんありますが、自分の思っていることがうまく表現できないもどかしさを体感できたことは何よりの収穫であると思います。人の発する言葉はその人を表しますが、「話せないこと」は「その人が考えを持たないこと」と同義ではありません。私の英語能力が十分ではなくても、人としての尊敬を持って親切に接してくれた方々との出会いを生涯忘れないと思います。そして新しく得た目標は、言語障害を持つ方のリハビリを、英語と日本語の両言語でできるセラピストになることです。そのためには英語を完璧に習得し、アメリカで大学院を修了する必要があります。今回の留学を支援してくださった方々への感謝の気持ちを還元するべく、次なる目標に向かってまた努力していこうと思います。今回、経済的な心配をすることなく積極的に行動することができたのも、留学奨励金のおかげです。本当にありがとうございました。